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今月のDARTS

Figure 1

20年目の新事実 — ぎんが衛星アーカイブスデータを用いたX線天体の発見

これまでに行われた数々の観測により、 宇宙には非常にたくさんのX線放射天体が存在していることがわかっています。 X線天体には強度が大きく変動するものも数多くあり、 中にはある限られた期間しか明るく輝かないというものもあります。 いつどの方向にどのくらいの明るさの天体が見つかったのかという記録の価値は、 何十年経っても薄れません。また、貴重な観測データがアーカイブス化されていると、 新天体が発見されたとき、その天体が過去にどのような特徴を示していたかということを調べることができます。

1987年2月に打ち上げられた「ぎんが」衛星はさまざまな領域の観測を行い、たくさんのX線天体を発見しました。 その中には、観測後20年を経ても、まだ十分な解析が進められていないものもあります。 また、当時、ぎんが衛星以外に宇宙を観測していたX線観測装置はほとんど存在せず、今でもその データの価値はとても高いと言えるでしょう。 以下では、DARTSにおかれている ぎんが衛星の観測データアーカイブスを用いた最近の解析から得られた成果を紹介します。

図1は、1988年4月に定規座の方向を銀河円盤に沿ってスキャン観測したときのX線強度の分布です(scan angle=0が銀経335度の方向にあたります)。 スキャン観測では、検出器を衛星の回転軸の周りにゆっくり回転させながら観測を行います。 この方法では、視野の中にX線天体が入ったときにはX線強度が強くなり、 視野から外れたときにはX線が観測されなくなるので、 このことを利用してX線天体の位置を決めることができます。 図1のうち、明るいピークの位置は以前の観測で見つかっていたX線天体の位置に一致します。 ここでは、真ん中よりやや右にあるピークに注目してください。 点線が描いてあるところは、X1608-522という名前のつけられたX線天体の位置にあたります。 エネルギーが高いX線(3段目)ではピークの位置はこの点線と一致していますが、 エネルギーが低くなるにつれてピークは左側へずれていき(2段目)、 最もエネルギーが低いX線(1段目)ではピークの位置が明らかに左側にずれています。 このことから、X1608-522の近くにエネルギーの低いX線を強く放射する別のX線天体が存在していることがわかります [1]。 解析の結果、新天体の位置は矢印の場所と決められました。 その後もこの領域を観測していますが、この時期を除いてはこの天体は検出されていません。 一方、X線スペクトルの解析から、ブラックホール連星天体とよく似たスペクトルであることがわかりました。 ブラックホール連星天体がこのときだけ明るく輝いていたのでしょうか。

Figure 2

図2は、1987年から1989年まで、 1年ごとに銀河系中心領域をスキャン観測した時の強度図です [2]。 1987年には銀河系中心の方向に、 かに星雲のX線強度の半分くらいにもなる明るいピークが見られます(1段目、矢印の位置)。 しかし、1988年と1989年の観測のデータ(2、3段目)のX線強度はほぼ同じであり、 1987年のような明るいピークは見られないことから、 定常的に輝いている天体からのX線のみが観測されていることがわかります。 1987年春に行ったいくつかのスキャン観測のデータから、 X線天体の位置は銀河系中心の少し北側の場所と決められました。 では、この天体はいつ頃まで輝いていたのでしょうか。 1987年の他のデータを詳しく調べてみると、 8月の観測の時にも明るく輝いていることがわかりました。また、10月には、 月が天球上を移動するときに背景の天体を隠すという現象(月による掩蔽)を利用した観測でもこの天体が検出されたと報告されています [3] (注)。 従って、この天体は、ぎんが衛星が観測を始めた1987年春より、 少なくとも1987年秋までは明るかったけれども、 翌年の3月までの間に暗くなってしまったのでしょう。 このことはぎんが衛星に搭載された全天モニターによる観測データでも確認されました [2]。 一方、X線スペクトルの解析結果から、 小質量の恒星と中性子星とが連星系になっているという種類のX線天体であろうと考えられます。

X線天体の中には数十年の時を経て、再び明るく輝くものもあります。 ぎんが衛星が見つけた天体も再び明るく輝いて、 その素顔(の一部?)を見せてくれる日が来るかも知れません。 そのようなときには、ぎんが衛星のデータにも再び光が当てられるでしょう。

(注)月による掩蔽を利用した観測では、 この天体の位置について2つの場所のいずれかであるとしていましたが、 今回の解析でそのうちの一つに特定することができました。

[1] Yamauchi, S. (2005), PASJ, Vol. 57, 465.
[2] Yamauchi, S., Nakagawa, Y., Sudoh, K., Kitamoto, S. (2007), PASJ, Vol. 59, 1141.
[3] Mitsuda, K., Takeshima, T., Kii, T., Kawai, N. (1990), ApJ, 353, 480.

山内茂雄(岩手大学)

2008年3月

最終更新日: 2023年12月11日